「六本木少女地獄」解説〜演出編②〜

➡︎a long time A5➡︎版「六本木少女地獄」解説。今回は演出編第2回を大公開!物語は次第に核心へと迫っていきます。


8.六本木➡︎家庭回想

ネオンに包まれ、舞台は再び六本木に。姉に逆らえないと語る少年。そんな姉をまるで母親みたいだと少女は言います。

少女も少年と同じ立場でした。少女は「男の人には何やっても勝てない」と呟きます。彼女は実の兄から日常的に虐げられていたのです。

途中、少女の回想シーンが入り、横暴な兄と肩身の狭い母、日常生活が困難な祖父が登場します。兄に歯向かうも冷たい平手打ちを喰らう少女。その姿は冒頭のキリトと姉の姿にも重なります。

兄役も演じてもらった岳さんのゆっくり近づいてからの平手打ち。たまらなく緊張感があって大好きなシーンです(なんて言うと誤解が生じそうだけど)。母役のふせんさんには、反射的に謝ってしまう心理状態について、問いを立てて貰いました。自分を押し殺してつい謝罪の言葉を口に出してしまう。これ実は私自身の悪いクセなんです。最近周りのみんなによく指摘されます。

「ビニール袋と一緒」、「使い勝手のいいただの容れ物」。兄は女という存在をそう認識していると語ります。そんな虐げたれた〝女〟という存在を自分は逆に利用していると笑う少女。和やかな空気が流れたのも束の間、彼女の提案で否応なしに鬼ごっこが始まります。六本木のネオンに消えていく二人。彼女によく似た少女がすれ違いでやって来て…


9.マリと湯田➡︎増大していく卵

再びフラフラと現れる湯田。着いた先はもちろんマリの部屋です。ベッドから起き上がったマリに湯田は驚愕します。お腹は順調すぎるほどに膨らんでいるのです。

腹に双子がいると嬉しそうに語るマリ。その顔は幸福に満ち溢れています。言い方悪いですけど妊婦さんの眼差しや笑顔から一種の、母性というエゴを感じることが多いんです、私。佳倫さんにはそういったエゴや幸福感を前面に出して欲しいとオーダーしました。〝幼い母性感〟という矛盾した状態を見事に出してくれて素晴らしかったです。

湯田から発された「お父さん」という単語を冷徹に拒否する少女。沈黙する二人。静かに降り注ぐ雨の中、湯田はマリにドライブに行こうと誘います。

このシーン、湯田のマリに対しての愛情が溢れてるのですが、お腹の子らに夢中なマリには一切伝わってないという切なさが堪らなく好きです。侑生さんにしか出せない優しさを押し出してくれているから余計に。そんな一歩通行な中、湯田はベッドの上で一冊のノートを見つけます。

焦るマリを抑え、ノートを捲る湯田。どうやら演劇の脚本のよう。セリフを音読する湯田の声に佐藤さん演じるヘビライの声が重なります。そして二人の目の前はボクケットミントンのリングに。


10.ボクケットミントン初戦➡︎キリト命名

遂にボクケットミントンの初試合を迎えるキリト。実況は何と実の姉。驚く弟を尻目に姉はノリノリで実況を続けます。

対戦相手はみんなのヒーローひょっとこボンバー!中の人は岳さん。背骨が病み上がりの中、ハードなことをさせてしまいました。本当に頭が上がりません。

試合シーンはファミコンゲームのドット絵的2D感をイメージして作りました。狭い空間だったのでもっと広々とリングを作れたらよかったんですけど。いつか円形タイプの劇場でボクケットミントンしてみたい!

第二試合のパリコレ出身選手はふせんさんにお願いしました。ふせんさん、金髪にイメチェンしてからグレース・ケリーにしか見えません。美しい!

試合後、ヘビライはキリトに「イエス・ウィ・キャン」というキャッチフレーズを名付けます。キリトに掛けられた赤いタスキはまるで…。キャストの三人が仲を深めていくにつれて充実したシーンになっていくのが嬉しくもあり切なかったです。

ちなみにこの一連のシーンをずっと観客席(ベッド)から眺めている湯田とマリの図は初演時にできなかった演出でした。二人はずっと脚本の世界を眺めていたんですね。キャストが増えたことで念願叶ったシーンです。


11.マリと湯田➡︎〝怒り〟と〝許し〟について

脚本の世界から戻り、再び湯田とマリの二人だけに。

半年前から続きが書けないと言うマリ。自身から湧き上がる〝怒り〟のお陰で物語を書けていたマリでしたが、双子を身籠ったことで怒りが消え、筆が止まったと言います。

「私の〝怒り〟は〝妥協〟でしかない」「本当の〝許し〟は心の底から怒った人にしか生まれない」−彼女はそう虚空に語りかけます。しかし、彼女の中に潜む〝何か〟が怒り足りない言うのです。いきなり怯え出し湯田に縋るマリ。彼女は声を振り絞り湯田に訴えます。身籠っている双子の姉、ランが暴れていると。

自身の意思を無視し、世界を創り上げようとするランに翻弄されるマリ。混乱を極めたマリに湯田は「君はまともな人だ」と諭します。黙り込むマリでしたが…

途中、ランと母が現れへその緒でマリを縛り上げます。一体誰が誰の母親なのか、胎児なのか。ダンス経験のあるふせんさんの芯のあるムーブメントで緊張感が生まれました。


12.男vs女

「男って弱いわね」

沈黙が充満した部屋をマリの呟きが突き刺します。驚き、謝る湯田。彼の側には二人の女の姿。女たちは湯田に「他の誰かに喋らせているあんたの言葉は誰にも聞こえない」と言い放ちます。湯田の姿と重なるキリトの姿。彼はずっと〝いい人〟の振りをしてマリの隣に居たのです。そんな湯田に怒りを露わにする女たち。そして彼は彼女たちの胎内(悪夢)に飲み込まれてしまいます。走り回る胎児らに翻弄される湯田。彼の〝いい人〟というメッキも次第に剥がれ、男と女、互いの理解し合えない罵倒が胎内を飛び交います。

このシーンはキャストが増えたことで湯田が胎児たちの鬼ごっこに巻き込まれるという悪夢を表現できました。こちらも空間の狭さで動きに制約ができてしまったことが反省点。開放的な空間で表現したら印象がガラッと変わるんでしょうね。

少女として、女として、母として…ひとりの身体にあらゆる〝女〟が詰まっていると思い、本来はランだけが放つ言葉たちを母役のふせんさんにも助けてもらって湯田と対峙しました。ふせんさんの静かな怒りとラン役のフチノの荒ぶる怒りが交わって侑生さんが大変そうでした。ごめんなさいね。

「卵子や精子にも意思はあるのか?」「その意思すら許されない意思だとしたら一体いのちはどこから来るのか?」女たちは彼に問いかけます。

「狂っている」ーそう言い残し湯田は胎内から追い出されます。女たちが取り残された胎内で正気に戻るマリ。

湯田が居ないとダメだと訴えるマリに「もう空っぽじゃない」「キリトがいればそれでいい」とあやすラン。納得いかないままマリも胎内から消えます。ひとり取り残されるラン。

彼方で試合に勝ち続けるキリトの姿を父に重ね、ランも姿を消します。