「六本木少女地獄」解説 〜演出編③〜

➡︎a long time A5➡︎版「六本木少女地獄」解説。最終回となる演出編第3回。少女と卵の夢が行き着く先には…


13.ジムにて

ランが姿を消し舞台はボクケットミントンのジムに。いそいそとお掃除をするヘビコ。後に続くのは苛立った様子のヘビライ。タバコ片手にずかずかと乗り込んできます(ちなみに彼は「わかば」愛煙者の設定です)。

伝説の選手エバラナカノブの息子を倒すことで自身を伝説にしようと考えていたヘビライ。しかし予想以上に試合に勝ち続けるキリト。ヘビライからしたら堪ったもんじゃありません。

苛立ちをぶつけてくるヘビライに呆れるヘビコ。稽古序盤の頃はなだめるような優しさで対応して貰ってましたが、二人の息が兄妹として合ってきたので次第に(良い意味で)お互いへの態度が乱雑になってきました。兄妹にしか出せない会話のラリーが日に日に完成していくのが楽しかったですね。

ランとキリトの秘密を探り出せとヘビコに命令するヘビライ。「弱み握れってことでしょ」と冷静に返すヘビコ。ヘビライのダメ男っぷりが露わになりまくりです。そんな彼がキリトに試合を申し込むと言うのです。不穏な空気が流れる中、キリトがやってきます。探り出しのために早速キリトとヘビコを二人っきりにさせるヘビライでしたが、気まずさに耐えきれなくなったヘビコが逃げ出してしまいます。取り残されるキリト。ふと振り返るとそこにはひとりの少女。「あなたのファン」と微笑む彼女に既視感を感じるキリト。そして…


14.六本木➡︎寓話

ネオンが二人を包み、再び六本木の街に。そこには鬼ごっこを終えた少年と少女の姿が。「お姉さんに抵抗しないの?」と尋ねる少女に「自分のことを諦めている」「僕は自分をどうだっていいと思っている」と無表情に語る少年。

実はこの少年のセリフを改めて読み返した時に、ふと中野くんの姿が思い浮かんで今回キャスティングオファーをしました。淡々とした佇まいや言葉たちに寂しさを感じ、何だか放っておけない彼。少女と同じ気持ちを私も中野くんに(勝手に)抱いています。

卑屈ともいえる少年の発言に「そういう人って結局、あなたは大切ですって言われたいのよ」「あんたのためにお姉さんに抵抗しないと」と諭す少女。しかし姉に恐怖を抱いている少年は決意が固まりません。そんな彼に少女はある寓話を語ります。

「象を小さい頃から杭に繋いでおく。そうすると大きくなっても杭から逃げられないと思い込んで抵抗する気すら起こらなくなる。」

意外にも博識な少女には元心理学教授の祖父がいるようです。彼女はそんな祖父の私物と思われる脚本を劇団に売り込みに上京したそう。たぶん祖父が書いたとつぶやく少女に少年は尋ねます。

「君、名前は?」

「アタシ?湯田!」

「湯田マリア」


15.母と祖父➡︎悔いる

ネオンが消え、そこにはひとりの老人が俯き、座っています。老人を探しに入ってくるひとりの女性。そう、ここはとある家庭の一室。

ぼそぼそと何かを呟き続ける老人に適当な相槌を打つ女性。彼女は老人の言葉に耳を貸すことなく彼に絵本を読み聞かせます。

「あるところに幸せなお家がありました。そこには幸せなお父さんと幸せなお母さんと…」

女性が絵本を読み続ける中、ゆっくりと現れ彼女に寄り添うラン。二人が語るのは幸せな女の子と小鳥の物語。卵を産んだ小鳥は大事に大事にそれを温め続けます。しかし一向に卵は孵りません。なぜなら幸せな女の子は小鳥が産んだ卵をプラスチックの卵とすり替えていたのです。マリのお腹に宿った双子(卵)たちの正体は…

女性とランが去り、再び取り残される老人。

「マリちゃん、ごめんね」

老人ははうわ言のように呟き続けます。彼の声に重なる湯田の謝罪の言葉。

突如歓声が沸きあがり舞台はボクケットミントンのリングに変わります。


16.ヘビライvsキリト

ヘビライの宣言通り対決の日を迎えた二人。

「裏切り者」。キリトに立ちはだかるヘビライに吐き捨てる姉。三者の間に鳴り響くゴング。遂に試合開始です。

姉が見守る中、苦戦を強いられるキリト。そこに突如ヘビコが割り込み、衝撃の事実を伝えます。

「イエス・キリトはエバラナカノブの息子じゃありません」

ざわめきに包まれる会場。呆然と立ち尽くすキリトとラン。そんな中、ヘビライは容赦なくキリトを攻撃します。

キリトとランには両親が存在しないと真実を突きつけるヘビコ。「ヘビはいつでも邪魔をするのね」とラン。

ヘビコはランにキリトを開放するように懇願しますがランもキリトもヘビライも試合を止めません。

キリトの名前を叫び勝利を祈るラン。そんな中、

「君はもう、お父さんを作ろうとしなくていいんじゃないか」

観客席から投げられた言葉の先には湯田の姿が。そして…

このシーンはヘビコ役の川島さんにしか出せない知的さと優しさを感じました。いつも冷静にみんなを見守りながらもそこからは温かさを感じられる。思えば川島さんの温かさで和やかな稽古場になっていたのだと思います。本当に感謝です。

舞台奥で戦い続けるヘビライとキリトの動きは完全に二人に任せてしまいました。稽古を重ねていくにつれて何だかかっこよくなっていく二人にドキドキしちゃったり…笑

湯田がいつの間にか観客席にいる演出は初演からやりたいなと思っており、こちらも念願叶ったシーンの一つです。リングも六本木も舞台も観客席も全てが一つに混じっていく感覚をお客さんと共有したかったんです。


17.リング↔︎六本木

湯田の言葉と共に消えゆくリング。次第に六本木の街との境界も崩壊していきます。

それでも見えざる敵と戦い続けるキリトの前に六本木で出会った少女マリアが現れます。

「逃げよう」と訴えるマリア。拳を振るい続けるキリト。彼は父親を求めるランのために戦い続けると言うのです。「じゃないと僕たちはなかったことになる」と。そんなキリトに彼女は「自分が強くなれば親なんて関係ない」と呼びかけます。

実は初演時にこの脚本を読んだ時にマリがキリスト教でいう聖母マリアだとしたらマリアはキリストの復活に立ち合ったマグダラのマリアだと思ったんです。娼婦でありながらもイエスに赦され最後まで寄り添い続けた女性です。今回はそこを意識してこの作品を演出していました。キリトを導かんとするマリアでしたがそこにランが現れ…


18.対峙=胎児

マリアに襲いかかるラン。抵抗するマリアの境界すら歪み、マリの姿が現れます。遂に対峙する二人。どちらが母なのか、胎児なのか。

キリトを神としてマリから生ませようと目論むラン。そんな彼女は自分の存在なんてどうでもいいと吐き捨てます。対峙する二人の向こうで戦い続けるキリト。

「あなたは私なの」

マリは姉弟に呼びかけ、謝罪します。自分の弱さが二人を生み出してしまい、ランにばかり喋らせてしまったと。

そんなマリ(母)を拒絶し父を求め続けるラン。「お父さんだけじゃ子どもは生まれない」と訴えるマリに湯田の呼びかけが聞こえます。湯田に憎悪を抱くラン。彼女は彼を倒すようキリトを仕向けようとします。それを阻止するマリ。

「あたし達が世界を作るの」

「あたし達の言葉が世界を作る」

ランの言葉を皮切りにへその緒に繋がれる二人。二人の口から紡がれ吐き出される言葉たちが描くのはリング、六本木、部屋、胎内…

対峙した二人は気づくのです。互いが互いの母であり子でもあるのだと。まっすぐと向き合う二人の間に三人目の母が入りこみ…


19.母と子

二人の母に乱暴に倒され、罵倒されるマリ。引きこもるマリを恥じ、帰らぬ父親に謝り続ける母たち。そんな二人にマリは父親なんていないと吐き捨てます。

「あんな豚みたいな父親、いなくなってせいせいしてる」

父の帰りを待ち毎日祈り続ける母に耐え切れず罵倒の言葉を浴びせるマリ。彼女は三人目の母に襲いかかります。ランの制止も空しく頽れる母。マリの怒りの矛先はランにも向きます。乱暴に床に叩きつけられるラン。

自分の思い通りにならない我が子を打ち続けるマリ。その姿は先ほどの母たちの姿と重なります。

「あんたなんか死んでしまえ」

ランの首を絞めるマリ。それでもマリを強く見つめるラン。マリはふと我に返り倒れこみます。衰弱しながらも彼女を抱きしめるラン。

「女なんか嫌だ」

まるで呪詛の言葉のようにでランが言います。頭が悪くて弱くて汚い、子ども生むことでしか救われない。それでも彼女たちは母親という存在になりたかった。生み出すということは女たちにしか許されていない、何よりも尊いことだから。

二人の後ろで今も尚戦い続けるキリトでしたが…

 


20.分岐

反撃も虚しく無残にも倒れこむキリト。

「マリちゃん」と彼方から聞こえる湯田の声。

「マリちゃん、ごめんね」と呟くキリト。

「私は何と戦っていたんだろう」−呆然と立ち尽くすマリに、ランは「もう何も考えないで」と訴えます。

近づいてくる湯田の姿に何かを思い出すマリ。「やめて」と制止し続けるマリ。

「湯田さんどうして」

マリの悲痛な声が胎内に響きます。そして、


21.真実

冷たく照らされた一室。ベッドで俯向くマリに湯田は「君はまともな人だ」と諭します。その姿は中盤の二人の姿と一致します。しかし先ほどと違い、黙り込むマリ。

「一体何が気にくわないんだよ」湯田の冷たい一言が響きます。驚きに顔を上げるマリにゆっくりと近づく湯田。まるで家庭回想で現れた兄のように。

「頭がおかしいんじゃないか」低く冷徹な言葉と共にマリを押し倒す湯田。

「触らないでお父さん。勝ってお父さん。」怒りと恐怖に塗れ、叫ぶラン。マリは父から受けた酷い仕打ちを湯田からも受けてしまったのです。父との現実も湯田との現実も否定し、マリを守り続けたラン。彼女の世界が無残にも崩壊していきます。

「こういうことをしないとさ、子どもはできないんだよ」湯田の悲しみを纏った一言と女たちの悲鳴。崩壊した世界に取り残されたランと、息も絶え絶えのキリト。彼はランに自身が負けてしまったことを謝罪します。「よく頑張ったね」と零すラン。彼女の一言を最後にキリトは静かに眠りにつきます。眠るキリトを静かに見つめるラン。

男と女。異なる二つの存在が生み出す罪、悲しみ、憎しみ。

「みんながあなたを愛する。それはあなたがみんなを愛しているから」

「あなたはすべての罪を背負い、そのために死ぬことだってできる」

過不足なく平等に。すべての父としてすべてを「許して」欲しい。彼女はそんな願いをキリトに語りかけます。だからまずは私があなたを許す。今度は私があなたのお母さんになる。ランの姿はまるでマリという母の姿と重なります。そんなランもキリトと共に眠りにつき…


22.六本木➡︎Ending

全てが眠った世界。そこは死んだ街か生命を失った胎内か。消えてしまった子どもたちに花を手向ける湯田。この演出は侑生さん自身のアイデアです。

「たくさんの生命が君になろうとして死んでいった」「だがヘソの緒は切られたんだ」と語る湯田。彼の瞳の先にいるのはマリとこれから生まれるであろう生命たち。ヘソの緒から解放されふてぶてしく、のびのびと歩いて欲しいと願う湯田。そんな彼を六本木の喧騒たちが包んでいきます。

「爆音、耳鳴り、クラクション…」彼が紡ぐ言葉たちと共に立ち上がる街。目覚める少女。そしてゆっくりと消えゆく湯田。楽日だけは彼のアイデアでギャラリーの外に姿を消すという演出になりました。これからきっと悔やみ続ける彼を六本木の光が優しく包んでいくのがなんだか寂しさを感じさせました。

湯田と入れ違いで街に現れたのはマリア。部屋もリングも六本木も胎内も全部一緒だったのかな。そう語りかける彼女ですがその隣には誰もいません。

「みんなひとりぼっちなのかな」と虚空に問いかけるマリの先に一人の男が。彼は五万でマリアを買いたいと言います。一瞬考えこむも「安くないわよ」と一蹴するマリア。男を尻目にあっけらかんと歩き始めます。

「女は嫌だ!」

そう笑顔で言い放ち、彼女はひとり、六本木の街へ消えていくのでした。遠くで聞こえる、ゴングのような鐘の音と共に。


最後までご覧いただき、ありがとうございました。

脚本はこちらからお読みいただけます

本公演のご感想もこちらからお読みいただけます。是非ご覧ください。